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2009年5月28日号
IT・デジタル関係をテーマにした「大前研一のIT時評」が夕刊フジで毎月第四金曜日に掲載されております。
 
テーマ1:使い道が不明な「エコポイント」
省エネ家電を買うと商品券などに交換できるポイントが政府から付与される「エコポイント」制度の適用が15日から始まった。政府はポイント交付の申請受け付けを7月に、商品への交換を8月に始める予定だが、どんな商品に交換できるかの詳細は未定のため、小売店側からは詳細を早く決めてほしいとの声があがっている。
 

選挙対策の最たるものですね。「自民党の力で家電も値引きしてあげます」ということです。

エコという観点で一番いいのは「何も買わないこと」です。買うとしても、一番小さいものを買うべきでしょう。小さければ、使うエネルギーも少ないわけですから。

ところが、大きくて高価なものを買ってもエコポイントが多くつく。これはとてもエコじゃない。詐称ですよね。

エコポイントの対象商品は一定レベル以上の省エネ機能を持つエアコン、冷蔵庫、地デジ対応の液晶・プラズマテレビです。なぜ「地デジ対応」が出てくるのか、まったくわかりません。これはエコなんかじゃなく、2011年のアナログ停波に対応したいという別の意味があります。

つまり、エコポイントというのは、ほとんど意味不明なのです。将来何かをくれるというので、みんな初日に家電店に出かけましたが、ポイントの使い道が不明なので、売り場は2日目からは早くも閑古鳥です。せめて何をくれるかだけでも早く決めてほしいですよね。

この制度は経済政策という意味からも評価に値するものではありません。そもそも、エコポイント券というものも存在せず、レシートで代用するというのですから、究極の付け焼き刃、泥縄です。日本はこんな国になってしまったのか…と暗澹たる思いですね。

 
 
テーマ2:タイム・ワーナー 傘下のAOLを分離方針
米メディア大手、タイム・ワーナーは、傘下のAOLを近く分離する方針を明らかにした。2001年の合併でタイム・ワーナーと統合したAOLはグーグルやヤフーに押され、収益が低迷。テレビや映画を核とする本業との相乗効果が薄れたため、ワーナーはAOLのすべて、または一部を切り離す計画。
 

私は以前から放送と通信は融合するのではなく、通信が放送を吸収していくのだと言い続けてきました。また、放送と通信は距離があるほうがいい、とも主張してきました。

したがって、タイム・ワーナーとAOLの合併は間違いだし、楽天がTBSを買収するとか、ライブドアがフジテレビの株を買い占めるということもまったく間違いです。「放送と通信の融合」などと言う経営者はインターネットの実態がわかっていない、と言い続けてきました。

その意味で、今回のタイム・ワーナーの発表は感慨深いですね。2001年の合併は、AOLによるタイム・ワーナーの吸収合併だったのですが、その勢力が数年で逆転し、主導権をとった旧タイム・ワーナー側がAOLを売却する、というプロセスに入ったのですから。ひとつの時代、というより、ひとつの錯覚に基づいた時代がようやく終わったということです。

楽天が、巨額の損失を出してもTBSの株を売ると決断したことからも明らかなように、放送と通信の融合というのは錯覚だったのです。

 
テーマ3:米アマゾン 電子書籍端末「キンドルDX」を今夏発売
米アマゾンは雑誌サイズの電子書籍端末「キンドルDX(デラックス)」を今夏に発売すると発表した。2007年に発売したキンドルの3世代目で、画面を従来機種の2.5倍にして新聞や雑誌を読みやすくした。販促の目玉として、米新聞大手のニューヨーク・タイムズなど有力3紙と組み、宅配網のない地域の購読者掘り起こしを目指すという。
 

私は、アマゾンは出版界のiTunesストアになると思います。アップルはiPodとiTunesストアで音楽のネット配信を普及させ、CD中心だった音楽業界の構造を一変しました。同様にアマゾンは、キンドルで紙の書籍中心の出版の仕組みを変えるでしょう。

この流れから逃れる術はないと思います。日本にはトーハンと日販という出版取次会社がありますが、彼らも中抜きされますね。

書籍はすべてダウンロードして購入するという形になると、製作コストは3割以上安くなり、流通コストや返本の問題もなくなります。

著者に今までと同じだけ印税を払っても、書籍の価格はかなり安くなります。書店に行く必要はないし、復刻本もすぐに作れますから在庫切れもなくなります。

こうしたメリットに対し、デメリットは電子版で読みにくいとか本棚が空っぽになって寂しいといったことぐらいです。これにより、街の書店はもちろん、トーハン、日販も吹き飛ぶでしょう。

アマゾンのキンドルDXは10GBほどの記憶容量なので、書籍なら数千冊は入ってしまいます。自動で通信する機能もあるので、新聞を毎日決まった時間にダウンロードすることもできます。

CDがiTunesストアに置き換わってタワーレコードが倒産したように、キンドルが書店を消してしまう可能性も出てきました。日本では既存勢力がこの普及を力づくで阻止しようとするでしょうから、まだまだ長く熱い戦いとなるでしょう。ダウンロードしても中継ぎ店と書店に「眠り口銭」が落ちるようにする、などの日本的解決策がくせ者です。読者へしわ寄せされないように厳しくウオッチしていかなくてはなりません。

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