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2010年2月26日号
IT・デジタル関係をテーマにした「大前研一のIT時評」が夕刊フジで毎月第四金曜日に掲載されております。
 
テーマ:グーグルと中国の関係 “災い転じて福と成す”
現在、グーグルは中国のネット検閲をめぐって、中国政府当局ともめています。クリントン米国務長官もかなり強硬な態度で中国を非難しています。そこで、「もしも私(=大前)がグーグルのエリック・シュミットCEOだったら、中国政府との関係をどうするか?」というテーマでこの問題を考えてみましょう。
 

この問題は今後、米中関係にかなりの影響があると思います。

中国国内には検索エンジンがいくつかありますが、その中で一番シェアが大きいのは「百度(バイドゥ)」で、約3分の2を占めています。グーグルのシェアは3分の1ですが、2000年には中国に進出し、07年にはチャイナ・モバイルと提携するなど、けっこううまくやっていました。そんななか起きた今回の問題は、グーグルのサーバーがサイバー攻撃を受けたのが発端です。この攻撃が中国政府によるものだ、というのがグーグルの主張です。

中国はこれまで、百度やグーグル、ヤフーなどに検閲への協力を要請し、その代わりに国内での事業を認めていました。そして、何らかの問題が起きたときには数時間以内にアクセスを遮断するという方法をとっています。現在、中国には3億8000万人のユーザーがいるといわれますが、その人たち全員がネットを見られなくなるのです。

実は、検閲はアメリカも行っています。アメリカ政府はホームランドセキュリティーと称して民間のサーバーをチェックし、テロなどに関する情報を収集しています。また、英国やカナダなどアングロサクソン系諸国と協力し、「エシュロン」という通信傍受システムも展開しています。

ただ、アメリカの場合は不利な情報を遮断することまでは行っていません。中国は「国家の安全を危険にさらす情報」などを遮断することを法律で定めているため、政府にとって都合の悪い情報は好きなときに遮断できます。これが基本的人権に反するとアメリカは反発しているのです。

ビジネス的に見ると、グーグルは中国内で3分の1程度のシェアしかありません。広告の売り上げも、世界全体の中で中国の割合は3%未満です。つまり、いま中国から撤退しても業績に大きな影響はないのです。ただし、中国のインターネット普及率は低いので、今後、2倍3倍に膨らむことは予想されます。

一方、グーグルは社内的な問題も抱えています。シュミットCEOは現実的なビジネスマンで中国からの撤退には慎重姿勢ですが、創業者で大株主のセルゲイ・ブリン氏とラリー・ペイジ氏は“ネット原理主義者”とも言える人たちで、検閲やサイバー攻撃に強い拒否感を持っています。シュミットCEOは中国政府と戦うと同時に、社内で大株主を説得するという2つの役割を果たさねばなりません。

さらに、米中の国内事情も絡んできます。中国でグーグルを利用している人たちはインテリ層が多く、中国当局としては購買力のあるインテリ層の反発は避けたい。対する米国も、中国でビジネスを展開している企業の立場を考えて、あまり強硬な態度には出にくい。そうしたなか、シュミットCEOはどう立ち回るべきでしょうか? 私の提案は以下の通りです。

シュミットCEOは、あくまでも中国当局と戦う立場を示しながらインテリ層の支持を広げます。そして、裏で中国政府と取引するのです。政府はインテリ層の反発を避けたいので、できることは何でもすると内心考えているはずです。それを利用してグーグルは事業を拡大するのです。

グーグルは現在、マイクロソフトやアップル、アマゾンと、OSや携帯電話、音楽配信などの分野で競争しています。そこで、この問題を奇貨とし、たとえばチャイナ・モバイルの携帯電話用OSをグーグルのアンドロイドにする、ネット通販や電子書籍事業はアマゾンではなくグーグルの展開するサービスを使う、というように中国政府の協力を得るのです。

中国という国は、表で恥をかかないのであれば、裏では何でも協力する国です。ただ、シュミットCEOが直接政府と対峙することは無理なので、中国の事情をよく知るITに強い中国人のアドバイザーを仲介役とし、“災い転じて福と成す”戦略をとるべきだと思います。

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